思えば一昨年のあの日、もしもバスの窓越しに何気なく空を見上げていなかったら、僕はバードウォッチングを始めていなかったに違いないし、このフォトギャラリーも存在しなかっただろう。何たる偶然か、あの時ほんの数秒ノスリの飛翔する姿が見えたのが全ての始まりだった(フォトギャラリー第1回参照)。以来、身近な野山でオオタカなどの猛禽類を始め多くの野鳥を撮影する事が出来た。運命は、ひょんな事から劇的に変わるものなのかも知れない。
今回紹介するのは全て同じ河川敷で撮影した猛禽類だ。いつもオオタカとの同定に苦労するハイタカだが、今回はほぼ間違いなくハイタカと判断出来るレベルの近距離で撮影する事が出来た。オオタカのように眉斑が明瞭な個体だが、その他の特徴は全てハイタカのものだ。忽然と背後から現れて、しばらく上空をソアリング(帆翔)してくれた。最接近時は近過ぎて超望遠で追随するのが難しいほどだった。まともに太陽に被る逆光の位置関係だったものの、幸い光線条件の良い瞬間が切り取れた。サイズはチョウゲンボウとほぼ同じキジバト大だが、悠然と飛翔する姿は実際以上に大きく見えた。なおこの撮影ポイントでは1月に雄成鳥と思われる個体も撮影している。
チョウゲンボウはハヤブサの仲間で、の下にハヤブサと同様の鬚状斑がある。この個体はおそらく雄と思われる。先般の写真は後方からのアングルで分かりにくかったが、今回は横方向から撮影出来た。陽が傾いた帰り道に、あきらめかけた僕を待っていたかの様に前方を横切ってくれた。ただ、前回は獲物を探索して比較的ゆっくり飛翔していたが、今回は一直線に飛び去ってしまった。超望遠レンズで動きの速い被写体を瞬時に捉えるのは非常に難しいが、この時もシャッターチャンスは数秒しかなく、しかもこのカメラとレンズの組み合わせではオートフォーカスでの撮影が出来ないので、我ながら良く撮影出来たものだと思う。
さて、ノスリも今回わりと近距離で撮影出来るチャンスに恵まれた。この個体はに横斑が無いようなので雌と思われる。また虹彩が暗色なので若鳥ではなく成鳥だ。ノスリやチョウゲンボウに共通する特徴は採餌の際に停空飛翔する事で、ネズミなどを狙って地面を見下ろしながら実に器用に空中の一ヶ所で静止する。羽ばたく停空飛翔をホバリングと言うのに対し、羽ばたかない停空飛翔をハンギングと言うそうだが、ノスリもチョウゲンボウもハンギングに近い。ちなみにこの川でよく見るミサゴはホバリングする事が多い。
この辺りの小動物は、さぞかし生き残るのが大変だろう。これほど危険な捕食者に飛び回られては油断も隙も無い。魚食性のミサゴから大物狙いのオオタカまで、少しずつ食性の異なる猛禽類が交錯しているから獲物となる動物も多岐にわたる。これらの猛禽類と無関係でいられる者や対等以上に戦える敵は皆無だ。この緊張感に満ちた生存競争の世界が、僕を虜にして離さないのだ。

類似種の識別:オオタカとハイタカツミとハイタカ参照
分類:タカ目 タカ科
全長:雄52.0cm 雌57.0cm
翼開長:122.0~137.0cm
分布:北海道~四国で留鳥。その他で冬鳥。
生息環境:平地~亜高山の林。
食性:小型哺乳類など。
フォトギャラリー:第1回参照
撮影難易度:★★★★☆
ノスリ
Common Buzzard
Buteo buteo
撮影日:2010年1月6日
撮影時間:14時48分10秒
シャッタースピード:1/1600秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:1600
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
分類:タカ目 ハヤブサ科
全長:雄33.0cm 雌38.5cm
翼開長:68.5~76.0cm
分布:全国で留鳥または冬鳥。
生息環境:平地~山地の草原、農耕地、河川など。
食性:鳥類、小型哺乳類、昆虫など。
指定:
天然記念物(長野県十三崖のチョウゲンボウ繁殖地)
フォトギャラリー:第37回参照
撮影難易度:★★★★☆
チョウゲンボウ
Common Kestrel
Falco tinnunculus
撮影日:2010年1月27日
撮影時間:15時12分58秒
シャッタースピード:1/1000秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
分類:タカ目 タカ科
全長:雄32.0cm 雌39.0cm
翼開長:60.0~79.0cm
分布:本州以北で留鳥または冬鳥。
生息環境:森林、農耕地。
食性:鳥類、小型哺乳類など。
レッドリスト:
準絶滅危惧(NT)
フォトギャラリー:第30回参照
撮影難易度:★★★★☆
ハイタカ
Eurasian Sparrowhawk
Accipiter nisus
撮影日:2010年2月24日
撮影時間:11時41分34秒
シャッタースピード:1/2500秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:1600
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
ハイタカ チョウゲンボウ ノスリ
第43回 2010年3月10日