近畿地方にこの鳥が居る事は全国に誇っていい。大阪から日帰り圏内の兵庫県豊岡市にある「兵庫県立コウノトリの郷公園」では、コウノトリの野生復帰へ向けて飼育・放鳥が行われている。この個体も足に標識が付いている事から分かる様に、野生のものではなく放鳥された内の一羽だ。日本のコウノトリは1986年に絶滅し、旧ソ連や中国から贈られたものが飼育されてきた。野生絶滅(EW)のトキと違い、ごく希に野生の個体が飛来するので辛うじて絶滅種には分類されていない。中でも2002年に飛来して2007年まで生息した個体は「ハチゴロウ」の名で親しまれた。
花札にもある「松に鶴」はコウノトリの間違いと言われる。確かに外見は似ているが、ツルは足指の構造上絶対に木に止まる事が出来ない。また、コウノトリはツルと異なり完全な肉食性だ。成鳥になると声帯が退化して鳴く事が出来なくなるが、嘴をカタカタ鳴らすクラッタリングでコミュニケーションをとる。なにしろ大型の鳥だから上空を飛ぶと壮観だ。
かつては日本中に居たコウノトリだが、明治時代以降に激減し姿を消した。その原因は一般人が鉄砲を所持出来る様になり乱獲されたからとか、営巣出来る樹木が伐採されたからとか、農薬により餌が汚染されたからとか諸説あるが、いずれにせよ人為的要因である事は間違いない。減る時は早いが増やすのは大変だ。現在の国内個体数は僅かに百数十羽でしかない。そのほとんどがケージ内で飼育下にある。
そんな状況だから、野生の個体を狙って撮影するのは不可能に近い。今回は放鳥されたものが形ばかりでも撮影出来れば良いと思って出掛けたが、豊岡市内に入って川沿いの国道を走っていたら川の中程で数羽が群れているところを偶然発見し、運良く駐車場があったので願っても無いポジションとタイミングで撮影出来た。公開ケージで餌付けされているとは言え警戒心は強いので、100メートルくらい離れた堤防の上から頭だけ出して撮影した。しかしここにも堤防を降りて50メートルくらいまで近づいた不心得者がいて、案の定一斉に逃げ去ってしまった。もっと近くで見たいという衝動は誰しも抱くだろう。しかし野鳥を絶滅から守る第一歩は、この様なエゴを抑制する所から始まるのではないだろうか。どうしても間近で見たいのなら上記の公開ケージに行けば良い。飼育されているものが数メートルの至近距離で見られるし、餌付けの時間になると放鳥された個体も飛来するから、いとも簡単に撮影出来る。自然の野山で撮影したいのなら、難度は高いが最低限のモラルを忘れてはいけないと考える。絶滅危惧ⅠA類・特別天然記念物に敬意を表して撮影難易度を最高レベルの星5個としたから、撮影には運と実力とそれなりの覚悟が必要だ。
分類:コウノトリ目 コウノトリ科
全長:112.0cm
翼開長:220.0cm
分布:全国で不定期。
生息環境:河川、池、水田、干潟など。
食性:魚類、両生類、爬虫類、小型哺乳類、昆虫など。
レッドリスト:
絶滅危惧ⅠA類(CR)
指定:
特別天然記念物
フォトギャラリー: 初登場
撮影難易度:★★★★★
コウノトリ
Oriental Stork
Ciconia boyciana
撮影日:2009年9月25日
撮影時間:10時47分48秒
シャッタースピード:1/1600秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:1600
撮影地:兵庫県
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
コウノトリ
第27回 2009年9月26日