これは当初描きかけた背景案。デジタル画は背景を変えたり複数の絵を切り貼りしたりする事も可能だ。細部に修正を加えて掲載している通りの完成作品となる。 ここまで一枚のデジタル・イラストを描く過程をプロセスに分けて紹介した。しかし、実際にはそんな単純なものではない。何度も前のプロセスに戻ったり、部分的に後回しにしたり、時間軸は結構アバウトで相対的だ。 そして、イラストにとって何より大きな要素は、完成前の一文だと思う。「細部に修正を加えて」云々と一言で書いたが、この部分だけで大半の時間を費やした。一度完成したと思っても、本当にこれで良いのか細部を何度もチェックし、とことん仕上げた。 デジタル画のメリットとして、数値化されたものは少ないコストで瞬時に通信が出来るという点が挙げられる。世界中、それどころか宇宙にまで送信が可能となる。しかも無限にコピーが出来る。将来ダ・ヴィンチやピカソの様な天才画家がデジタル絵画を描いたならば、現在の様に門外不出とか厳重な警備をしたりとか、輸送に高額な保険を掛けたり何重も梱包をしたりする必要はない。「モナリザ」や「ゲルニカ」レベルの芸術作品のクローンが無限に増殖してしまうのだ。そのかわり、オークションで1枚の絵が何十億円などという訳にはいかない。 今回のイラストはマウスを使って描いた。タッチパッドなどを使う方法もあるが、マウスでも何ら支障は無い。持ち慣れたペンとは違うので最初は戸惑ったがすぐに順応出来たし、仮に手元が狂ってもすぐに直前の状態に戻る事が出来るので慣れてしまえば扱いやすい。
意識した訳ではないが背景色にはたまたまカワセミの腹の橙色の対色である青を配色している。カラーチャートの対角線上に配置されているのが対色で、色を反転させた時に得られる色だ。それを隣接して配色すると互いの色を引き立たせる効果が有る。ここでは背景をぼかす事により遠近感を出したうえ背景の方を暗くする事でカワセミを手前に浮き出て見える様に際立たせた。しかし改めてよく見るとカワセミ自身が背面に青系統を配色しており対色になっている。
ところで1枚の絵を長期間かけて描いていると、目が慣れて来て出来栄えの良し悪しが分からなくなる時が有る。そういう時は、慌てずゆっくり時間を置いて見直すしかない。
デジタル画には、画像を拡大する事により細部のディテールが描きやすいというメリットも有る。但し拡大し過ぎるとかえって質感が掴みにくいので、少し描いては等倍に戻してチェックするという作業の繰り返しになる。
カワセミを描くのに数日掛かったのに対し杭を描くのには10分ほどしか掛かっていない。本来こういう背景物に手を抜いてしまうと途端にリアリティが失われてしまうものだ。それぞれレイヤーに分けて別々に描く事が出来るので後から差し替えなども楽に出来る。修正したい時も他のレイヤーに影響せずに作業出来る。これもPhotoshopのメリット。他のレイヤーと重ねて見ながら作業する事も可能。
次にや嘴など各パーツを描き込み、色数も徐々に増やして行く。この辺からいよいよ本格的な作画に入って来るので、絵描きにとっては一番面白い所だ。動物を見る時、人間は無意識に眼の周りを集中的に見ているものだ。従って眼の周辺には特に手を抜かないのが絵をリアルに見せるコツだ。この段階まで来るとかなり立体的になるので、デッサンの狂いに気付く事もある。普通のイラストなら間もなく完成に近いこのレベルでの修正は相当な手間となるが、妥協せず大胆にメスを入れる。そもそも狂ったデッサンを放置すると、いずれその皺寄せで処理出来ない部分が出て来る。結局困るのは自分だ。
当然最初にやる事は下書だが、ここで狂うと後から修正するのが大変なので要注意だ。まず、大まかなラインをデッサンしてイメージを掴む。この段階では当然無駄な線も多いが、飽くまでも全体として狂いのない輪郭を掴むのが目的であって、ここは普通に水彩画などを描く時の下書と同じ要領だ。凹凸の表現が無いこの段階では思いがけない錯視に惑わされるので、正確なラインを引くのは意外に難しい。かなり緻密なレベルで納得出来るまで、何度でも修正を加える。
下書が出来たら別のレイヤーに大まかな色を塗り、全体のカラーバランスを整える。着色するという事は、同時に凹凸を表現するという事でもある。色と凹凸の下書とも言うべき段階だ。全体的に見て色や明るさに偏りが無いか、部分的に見て凹凸の表現に狂いが無いか、この時点で確認する。また、青一色に見える様でも、よく見ると均一ではない部分も見落とさない様にする。細部にこだわらず、中間の明るさの部分から始めて明るい部分と暗い部分を後から着色した方がバランス良くまとまる。
イラストの自己流制作過程の舞台裏を段階を追ってお見せしてしまうメイキング編第1弾。
カワセミのイラストはフォトギャラリー第2回に掲載している写真を見ながら「Adobe Photoshop」で描いた。もちろん写真を加工した訳ではなくCGでもないから紙に描く時と同じ手順で完全に手作業で一から描いた。
メイキング編 カワセミ