知人に「なぜ鳥が好きなのか」と尋ねられる事が有る。そんな時は有名な登山家の言葉を借りて「そこに鳥が居るから」と答えたりする。否、そう答えざるを得ないのだ。野鳥の魅力は不思議としか言いようが無い。世の中にはもっとマイナーな被写体を素材にしているカメラマンも居るから野鳥ファンはメジャーな方だと思うが、まだまだ身の周りに野鳥ファンは少ない。
今回は撮れた内に入らないくらい苦し過ぎるヤツガシラの証拠写真だ。何しろ警戒心の強さが尋常では無い。大阪南港野鳥園の丘で早朝から丸一日身をかがめカメラを構え続けてようやく撮れた写真は唯一このたった1枚のみだ。ピンボケに手ブレで白飛びも有り、よく分からない写真になってしまったが、右から左方向へ向って飛んでいる所だ。図鑑みたいに扇形の冠羽が立った写真は夢のまた夢。これでさえよくぞ撮れたものだ。勤め人の辛さで月に1、2回程度しか野鳥園に行けない割に、何故か不思議とこういう場所に居合わせるとは相変わらず僕はつくづく幸運だ。
今回はたまたまサブカメラのD40の出番となった。こういうシーンを想定して置きピンにしておいて手持ち撮影したが、背景が空抜けになる場合に備えて露出をプラス補正していたのが裏目に出てしまった。横斑がこんなに白いとは思わなかった。白飛びして階調が失われてしまうと後から画像処理してもどうしようも無い。野鳥ファンの間では、この様に安価なカメラとレンズを使っている人は少ない。合わせて100万円以上もする機材を担いでいる人がほとんどだ。三脚だけでも僕の機材一式くらいの値段だろう。上級機はダイナミックレンジも広いし、高感度域でも画質が良い。開放F値の明るいレンズならシャッタースピードを稼げる。そういう機材を使っていれば或いは今回の写真ももう少し見られる絵になったかも知れない。僕もそろそろ上級機を検討しているものの、いくら高価で高性能な機材を揃えてもシャッターチャンスに出会えなければ宝の持ち腐れとなってしまうし、使いこなせなければチャンスをモノに出来ない。こういう安価なカメラでプロやハイアマチュアを尻目に珍鳥を撮影するのはそれはそれで快感だ。
譬えは悪いが、バードウォッチングは麻薬やギャンブルみたいなものだと思う。初心者の頃はカルガモやアオサギでも撮影出来れば大きな満足感が得られたものだ。だが次第に普通種では飽き足らなくなり、より珍しい鳥や特異なシーンを追い求める様になる。機材にもこだわりが出て来る。そして今回の様に警戒心の強い野鳥が射幸心を煽り、次こそはもっといい写真をと更に完璧な撮影を追求し、深みにハマって行く。何もかも簡単に撮れてしまったら却って面白くないだろう。難しいからこそ難度の高い野鳥が撮れた時の達成感も大きいのだと思う。こうなると10日も野鳥が見られないと禁断症状が出て来ると言っても過言ではない。珍しい鳥、奇麗な鳥、可愛い鳥、大きな鳥、強い鳥、カッコいい鳥、速い鳥、変わった鳥、等など様々な個性を持った鳥が入れ替わり立ち替わり現われて僕を魅了する。
「なぜ鳥が好きなのか」自分でもよく分からないし到底一言では説明出来ない。「そこに鳥が居るから」僕はこれからも野鳥を追い求めるだろう。
分類:ブッポウソウ目 ヤツガシラ科
全長:30.0cm
翼開長:44.0cm
分布:全国で稀な旅鳥、局地的に夏鳥。
生息環境:草原、農耕地、川原、海岸など。
食性:幼虫、爬虫類など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★★☆
ヤツガシラ
Eurasian Hoopoe
Upupa epops
撮影日:2013年4月17日
撮影時間:09時48分55秒
シャッタースピード:1/320秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
ヤツガシラ
第109回 2013年4月24日