一度見たら忘れられない顔だ。この大きな嘴で堅い種も割ってしまう。覆面をした様に顔が黒くて目が目立たないのは、ある種のカモフラージュだろうか。見た目のいかつさとは裏腹に、鳴き声は遠くまでよく通る透き通った美声で、どこか呑気に口笛でも吹いている様にも聞こえる。鳥は見掛けによらない。
ところで以前、野鳥に向かってオカリナを吹いている紳士を見掛けた事がある。おそらく野鳥と合奏しているつもりだったのだろう。好奇心の強いのが寄って来るという期待もあったのかも知れない。だが、人間以外の動物を擬人化するのは間違ってないだろうか。野鳥がさえずるのは、多分口笛を吹いている訳ではない。人間が吹く笛も、野鳥にとっては音楽ではないだろう。だが一方的な愛情とは言え、野鳥ファンに悪い人はいないだろうから、あまり責めないでおこう。
鳥類の中で最も嘴が大きいのは南米に生息するオニオオハシだそうだが、先日その大きな嘴の血流量を調節して体温を下げている事が分かったと言う。鳥類は恒温動物だが発汗出来ないから、このイカルも嘴で体温調節しているのかも知れない。この辺りでは年中見かけるから、もし同じ個体ならば暑い夏にも寒い冬にも耐えている事になる。標高の高い所へ移動するだけでも多少は気温の上昇に対応出来るだろうが、この大きな嘴で順応している可能性も有る訳だ。
イカルはカワラヒワやシメなどと同じアトリ科の野鳥だ。アトリ科の中では最大級で、ほぼムクドリ大だ。この撮影ポイントでは頻繁に見かけるものの、なかなか良いポジションに止まってくれなかった。以前は50メートル以内には寄って来なかったが最近徐々に近づきつつあり、この日は仲間とのせめぎ合いに夢中になって約15メートルまで接近してくれた。わずか数秒で見られている事に気付いて飛び去ったが、ハッと我に返った瞬間のカメラ目線(?)がこれだ。どこに目を付けているか、お分かりだろうか。
他の多くの野鳥と同様、狙って撮るなら追いかけ回すよりも待ち構えた方が良い。前述の様にさえずりは結構遠方まで届くので、耳を澄ましていれば近付いて来るのが分かる。一日に数回同じ場所を巡回するらしく、居なくなってもしばらくすると大抵また戻って来るから焦る必要はない。ただし同じ木に止まる事は少ないので、カワセミみたいに置きピンで狙う訳にはいかない。僕の撮影スタイルでは三脚でカメラを固定する事は無い。その様なシチュエーションがほとんど無いし、固定してしまうと不測の事態への対応が遅れるからだ。カワセミでさえ毎回同じ木に止まるとは限らないのだ。一時フィールドスコープの購入を考えた事もあったが、あれは長尺になり過ぎて手持ち撮影には向かないと思い断念した。

カワラヒワ:フォトギャラリー第14回参照
シメ:フォトギャラリー第14回参照
カワセミ:フォトギャラリー第2回第19回参照
分類:スズメ目 アトリ科
全長:23.0cm
翼開長:33.0cm
分布:九州以北で留鳥または漂鳥。
生息環境:平地~山地の林など。
食性:草木の種子など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★☆☆
イカル
Japanese Grosbeak
Eophona personata
撮影日:2009年7月11日
撮影時間:13時46分47秒
シャッタースピード:1/1250秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
イカル
第25回 2009年8月22日