飛び物を狙うとしたらもっと長時間粘ったところだが一時はどうなる事かと思った程だったので僕は充分満足し後回しにしていたオオワシを見に行く事にして現場を後にしたのだった。撮影中は無我夢中で時間の感覚が無く15分程度にしか感じなかったが後で撮影データを見て驚いた。最初のコマから最後のコマまで50分以上も経っていた。
なお、シジュウカラガンを取り巻く問題は絶滅の危機だけではない。一部地域で人為的に持ち込まれたカナダガンが半野生化しており要注意外来生物としてこれらとの交雑を危惧する声も有る。図鑑によればカナダガンはより大型で嘴や頚が長くが白くて頚の付け根に輪が無い。かつては同種の別亜種だったが現在は別種に分類されている。また別亜種のヒメシジュウカラガンはより小型で嘴や頚が短くこちらも頚の付け根の白い首輪が無い。この個体は若鳥なのかその首輪が薄い様に見える。
シジュウカラガンは昭和初期までは多数が渡来していたらしいがその後激減した。近年少しづつ個体数が回復し東北方面の定期的な渡来地では数百羽の群れが見られるという(それでも僅か数百羽!)。但し警戒心が強くかなりカメラから遠くてこんなに近距離からは撮影出来ないそうだ。この個体は警戒心の強くないコハクチョウの群れに入っているのでつられていると思われる。少々人間が怖くても単独で居るよりはコハクチョウの群れの中に居る方が安心なのだろう。さすがの猛禽たちもコハクチョウまでは狙わないはずなので実際に群れが襲われるリスクも少ないと思われる(ハイタカがカワウを襲うのを見た事が有るなどという話も聞くのでもちろん可能性がゼロという訳ではないが)。どんな運命の悪戯が重なったのか、考えてみればこのシジュウカラガンは仲間とはぐれコハクチョウの群れに入る事にしたからこそここまで渡って来たのだろう。北帰したら無事に仲間と合流して欲しいと思う気持ちと、もしそうなるともうここには渡って来ないだろうなぁという気持ちの間で感情が複雑に揺れ動く。
結果が良かったから言える事だろうけど終ってみればたまにはこういうのもいいなと思える。心地よい疲労感とでも言うか、しんどかったぶん喜びも大きい。もしすんなり1日目の朝に見る事が出来ていたらその程度の野鳥だと勘違いしてしまい全く違った印象を持っていただろうしコラムももっと短く素っ気ないものになっていたことだろう。普通なら一度見たから次はもういいとなるが、またいつか再会したいという気持ちの方が強い。本来はそう簡単に会えない稀少種である事を僕に認識させる為に、或いはより大きな感動を僕にくれる為に、もしやシジュウカラガンは敢えて勿体をつけていたのかも知れないとさえ思えて来る。また、今回はいろんな人のお世話になってしまった。快く情報をくれた人、親切に道を教えてくれた地元の人、最初にシジュウカラガンを見つけた人、そして何よりここに来てくれたシジュウカラガンに言い知れぬ感謝の気持ちがこみ上げて来た。

コウノトリ:フォトギャラリー第86回他参照
コハクチョウ:フォトギャラリー第260回他参照
オオヒシクイ:フォトギャラリー第261回他参照
マガン:フォトギャラリー第261回他参照
アリスイ:フォトギャラリー第196回参照
オオワシ:フォトギャラリー第131回他参照
ハイタカ:フォトギャラリー第341回他参照
カワウ:フォトギャラリー第40回参照

フォトギャラリー・レイアウト編
分類:カモ目 カモ科
全長:67.0cm
翼開長:139.0cm
分布:局地的に稀な冬鳥。
生息環境:内湾、湖沼、河川など。
食性:穀類、水草、海草など。
レッドリスト:絶滅危惧ⅠA類(CR)
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★★☆
シジュウカラガン
Cackling Goose
Branta hutchinsii
撮影日:2018年1月18日
撮影時間:10時32分01秒
シャッタースピード:1/200秒
絞り値:F16
撮影モード:マニュアル
焦点距離:1000mm(換算1500mm)
ISO感度:400
撮影地:滋賀県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon Reflex-NIKKOR・C 1:8 f=500mm
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
撮影日:2018年1月18日
撮影時間:10時13分54秒
シャッタースピード:1/100秒
絞り値:F16
撮影モード:マニュアル
焦点距離:1000mm(換算1500mm)
ISO感度:400
撮影地:滋賀県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon Reflex-NIKKOR・C 1:8 f=500mm
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
シジュウカラガン
今回は最初に結末が分からない様に異例の変則ドキュメンタリー・レイアウトにしてみた(携帯電話等ではあべこべに表示される場合あり)

情報を仕入れてそこに居るのがあらかじめ分かっている野鳥を見に行っても感動が薄い事は重々承知の上で、割り切ってとにかく画像を得る事だけを目的にシジュウカラガンを見に出掛けた。いつも地元ばかりではどうしても鳥相が偏るので気分転換を兼ねてたまには遠出をしたいという気持ちも手伝った。シジュウカラガンは行く所へ行けば幾らでも見られるはずだがレッドリストではコウノトリなどと同じ絶滅危惧ⅠA類だからランダムに探鳥して遭遇出来る可能性は非常に低いだろうし日本列島は一般に言われているほど狭くないからわざわざ定期的な渡来地まで出掛けるのは大変だ。この機を逃せば次はいつチャンスが巡って来るか分からない。だいぶ前から琵琶湖に渡来している事を知っていながらずっと見送っていたが近場に居るのなら見ておくべきだという考えが勝り見に行く事にした。
実は当初は楽勝気分で家を出た。しかしする事なす事全てがことごとく裏目裏目に出て踏んだり蹴ったりな一日だった。そもそも朝起きるなり思いつきで衝動的に家を出たのが間違いの始まりだった。高速に乗ってしまったところで湖北野鳥センターが定休日だという事に気付き、ここで情報を得られるだろうと当てにしていたものだから一気にテンションが下がった。今更引き返す訳にも行かずあれこれ考えを巡らせ湖西道路を走って途中の新旭水鳥観察センターに寄れば何か得られるかも知れないと思い直した。しかし行ってみるとこちらも定休日。仕方なく現地で聞き込みをする事にしてともかく先へ進んだ。運が良ければまだ塒(ねぐら)の湖北野鳥センター前に居るかも知れない。そして10時頃になってようやくその湖北野鳥センターに到着しカメラを持った人に恐る恐る尋ねてみたら何と30分前に田圃の方へ飛んで行ったとの事。早朝塒に居るところを狙わなければ厳しい事は分かっていたが今季スタッドレスに履き替えていない僕は路面凍結が怖くて遅い時間に出発したのがいけなかった。自宅を出る時はさほどこだわりは無かったが30分の時間差で逃した悔しさから負けず嫌いのスイッチが入り退くに退けなくなって泥沼の様に付近の田園地帯を当てもなく彷徨い歩き始めた。砂漠の真ん中で水を求めるかの様に歩き回り出会ったカメラマンに尋ねてみても皆目見当がつかない(余談だがカメラを構えて撮影態勢に入っている人に声をかけるのは禁物で、声をかけるなら相手が小休止しているタイミングなどを見計らう配慮は最低限必要)。広大過ぎる田園地帯なので歩いていては埒が明かないと思い、車を流しながら目印となるカメラマンのグループを探したり過去にコハクチョウを撮影したポイントに行ってみたりしたが駄目な日は何をやっても駄目で見渡す限りどこにもそれらしい姿は見当たらず、また歩き回ってたまたま最初に尋ねた人と再会しどこそこに居るらしいという耳寄りな情報をもらって胸を躍らせながら通りすがりの人に道を聞きつつようやく現場を探しあててみると既に抜けた後なのか現場を間違っているのか人っ子一人居ないもぬけの殻だったりと、見えかけた希望の灯が無情にも吹き消された様な状況に僕の鳥運も尽きたかと暗澹たる気持ちにさいなまれ悲壮感が漂って来る。この付近には山本山城跡や古戦場も有って戦国時代の落ち武者はさぞかしこんな心境だったろうなぁなどと思いを巡らす。それでも日暮れまでには必ず塒に戻ると出会った人に聞いていたので最後はそこに懸けていた。情報を後追いしていては後手を踏む。少し早めに湖北野鳥センター前に陣取りひたすら待つ。やがて1羽のコハクチョウが戻って来た。だいぶ経ってからまた数羽、その後また数羽と順次コハクチョウたちが戻って来る。しかし行動を共にしているはずのシジュウカラガンの姿は無い。陽が大きく傾き辺りがだんだん暗くなって来て「もう駄目か」という悲観的な感情が湧いて来るが「いやまだまだ!」と自分自身を叱咤する。ISO感度を上げてなおも待つ。こういう時の夕陽は落ちるのが速い。焦る気持ちが次第に強くなり諦めに変わって行く。沈む夕陽は誰にも止められず日没迄に間に合ってくれという願いも虚しくとうとう夕陽が湖の向こうに落ちてどんなにISO感度を上げても撮影不可能な暗さになってしまい、しかも翌日の予報は朝から雨との事で宿泊もせず意気消沈してトンボ返りする事にしたのだった。シジュウカラガンを探す事を優先したので山本山のオオワシすらマトモに撮っていない。情報を元に野鳥を探し回るという初心者感丸出しのつまらない探鳥(探鳥と言うよりただの追っかけ)を久々にやらかしてしまい、しかもその結果は惨憺たるものだった。この日の教訓は「無計画な行き当たりばったりは失敗の元であり経費も高くつく」という事だった(ガソリン代もいつもより高かったし高速料金も無駄になった)。教訓を得た事により全てが無駄だったという事にはならないで済む。それが唯一の救いだ。
2日後、今度は早朝に塒を狙おうと深夜1時に自宅を出て必勝態勢で臨んだ。比較的暖かい日だったが最も気温の下がる早朝の路面凍結を避ける為に凍結する前に峠を越えてしまおうと考え夜中の内に走る事にしたのだ。経費削減のため高速を使わずひたすら深夜の一般道路を走り余裕を持って夜明け前に湖北野鳥センターに到着した。これ以上無駄使い出来ない僕はもしこの日も駄目だったらもう縁が無かったと思って諦めようと決めていた。黎明の内に湖周道路に出て歩道から湖面に目を凝らす。しかしぼんやりとコハクチョウの姿は見えるものの小さくて黒っぽいシジュウカラガンらしい姿は全く見えない。少し明るくなって来てもその姿は確認出来ない。湖周道路を数百メートル歩いて周辺の湖面を探すが結果は同じ。それらしい姿は全てオオヒシクイやマガンですっかり明るくなってもここに居るはずのシジュウカラガンは見つからなかった。塒を狙えば確実だと確信していただけに尚更落胆は大きかった。そうこうする内に湖北野鳥センターが開館したので一縷の望みを託して助けを求めに行ったら何とこの朝に限って行方不明になっていると言う。もう悪夢を見ている様な気がして来た。聞けばいつもはコハクチョウの群れと一緒に行動するがたまにオオヒシクイの群れに入る事が有ってオオヒシクイは警戒心が強く人間を寄せ付けないのでそうなると見つけるのが非常に難しいのだそうだ。実際かつて僕もこのくらい離れていれば大丈夫だろうと思ったら100mくらいの距離でオオヒシクイを飛ばしてしまった事が有る。その時はたまたま飛んだのかなと思ったがレンジャーによればそういうレベルの警戒心だそうだ。もう闇雲に探し回っても見つける事は絶望的なので何か情報が入るのを待つ事にして窓の外を虚ろな目で眺めていた。レンジャーの人が目ざとくアリスイが居るのを見つけたので湖周道路に出て土手を見下ろしたりして戻ったところへ鮮度の高い一報が飛び込んで来た。車で数分の所で再発見したという。歩いて行けば1時間半くらい掛かるとの事だったので付近で駐車出来る所を聞き、はやる気持ちを抑えつつ安全運転で現場へ向かう。運良く2日前に走った道だったので迷う事無く現地に到着し数人のカメラマンの姿もすぐに見えたが思ったより手前だったので一度通り過ぎてしまった。地図を見てやっぱりさっきの所だったと気付いて来た道を戻り車を停めてまだ飛ばないでくれと祈る様な気持ちで足早に向かう。近付くにつれて田圃の真中にコハクチョウの大きな群れが見えて来る。シジュウカラガンは不思議にも体格の近いオオヒシクイより体格差の有るコハクチョウの方がお気に入りと見えてその群れに戻った様だ。自ら被写体を飛ばさない様に最後の数十メートルは慎重にゆっくり歩いた。なるほどコハクチョウたちは農道に面した田圃1枚の中で餌をついばんでいるからその気になればかなり接近出来る。だがお目当てのご本尊はコハクチョウよりだいぶ小さいので数百羽のコハクチョウの群れの中に埋没しているらしく全く見えない。ここまで来ればもう証拠写真でも豆粒でも何でもいいと思っていたから離れた所にカメラを据えてじっと待つ。しばらく辛抱してファインダーに目を凝らしているとチラッと頭だけ見えたりしだした。こんなものを見つけた人は凄いなぁと驚くばかりだ。カメラマンたちが様子を見ながら農道伝いに徐々に接近し出したので僕も後に続いて慎重に近い位置までにじり寄った。気が付けばコハクチョウたちも手前の者は農道から僅か5mの距離の所に居るくらい近い。しばらくしてコハクチョウの群れの中に黒っぽい鳥が見えて来た。望遠レンズを向けると逆光だったが紛れも無く探し求めていたシジュウカラガンの姿が確かに有った。採餌に夢中になっているので頭は密生する蘖(ひこばえ)の中にほとんど隠れていてなかなか画にならない。コハクチョウが入れ替わり立ち替わり手前に被って来てなかなか思う様に行かない。その姿が垣間見えた僅かなチャンスを逃さずシャッターを切った。順光側には道が無くてこのアングルしか撮れなかったが最後は一段高い畦道に立ってくれた。
第347回 2018年1月27日