図は1893年にイギリスで登場したトリプレットタイプと呼ばれるクック社のレンズだ。凸凹凸の順にたった3枚の単レンズを配置しただけのシンプルな構造だが前回までに掲載した諸収差を全て補正可能にしている。真ん中の凹レンズが凸レンズと反対符号の収差を発生し球面収差、コマ収差、非点収差を打ち消す。凹レンズに高分散ガラスを使用して軸上色収差を除去し、前回連載企画でも推察した通り左右対称の凸レンズの位置や屈折率の配分から歪曲収差と倍率色収差を除去する事が可能だという。凹レンズが凸レンズから離れて配置されているのがミソで光線が凹レンズの低い位置(光軸に近い所)を通る(h2)から凹レンズに大きな負の屈折力(短い焦点距離)を与える事が出来る。入射高が低いと球面収差によって小さく曲がる性質を逆手に取ったものと思われる。つまり凹レンズに低屈折率ガラスを使わなくてもペッツバール和P(※)を小さくする事が出来るから像面湾曲と非点収差が補正可能となった。一般に低屈率の素材は低分散になってしまうから高分散を得たい場合は当時は高屈折率にならざるを得なかった。現代ほど優れた低屈折率高分散ガラスが無かった時代に考案された傑作だった。これを基礎として現在にまで至る標準レンズの発展が有ったと言っても過言ではない。光線を収斂させる凸レンズ(正確には屈折面)を正のパワー、発散させる凹レンズ(屈折面)を負のパワーと言いその並び順をパワー配置と言う。トリプレットのパワー配置は正負正という事になり現代でも標準レンズのパワー配置は恐らくほぼ全て同じ正負正で出来ている。
※ペッツバールの条件を復習するとP=Σ(1÷)だから分母の焦点距離が小さくなると逆数である(1÷)は絶対値が大きくなる。凹レンズだからマイナスの値となり効果的に凸レンズの値を打ち消す事が出来るという理屈だろう(フォトギャラリー第621回連載企画参照)。
参考文献:小倉敏布「写真レンズの基礎と発展」朝日ソノラマ社1998年
トリプレットタイプ
連載企画;トリプレットタイプ
さてカメラのレンズは様々な収差を抑える為に何枚もの単レンズを組み合わせているという前回までの話の流れで実際のレンズでどの様な設計思想で単レンズを組み合わせているのかを見て行きたい。その為には必然的にレンズの発展の歴史を遡らねばならない。撮影に直接役に立つ事は無いと思うが知っておいて損は無い。
この日の山間部は朝から久々に積雪が有り意気揚々と現場に向かった。現場に着くなり野鳥たちの群れが出迎えてくれる様な状況でたまたま通りかかった散歩の人も「今日は鳥が多いなぁ」と言っていた。結果から言ってしまえばこの日一日だけで個人的には記録的な20種の野鳥が撮れ主な冬鳥が勢揃いした様な日だった。過去最多記録は正確には調べきれないが恐らく更新したのではないかと思えるくらい朝から絶好調で調子に乗って日没まで頑張ってしまった。しかし午前中だけで16種だったのに対し午後からは4種に終りヒヨドリやカラスでさえ撮れないくらい鳥運に見放された様な状態になってしまった。もっともアカウソは終日現場内の至る所で見られたしイカルやアカゲラ、アオゲラらしきものやカケスを撮り損ねるなど野鳥たちの姿が全く無かった訳ではない。シジュウカラなど敢えてシャッターを切らなかったりしたのでトータル的にはこの日は大当たりだった。考えてみればアカウソは今季初認だった。1枚目はリョウブ、2枚目はヤマザクラの新芽、3枚目は何の木かは不詳だがいずれも何かを食べているところだ。
ミヤマホオジロを撮った時も実はアカウソの撮影中だった。現場で最初に見つけたのがアカウソの群れでその時前述の散歩の人が通りかかって藪の中からミヤマホオジロが驚いて飛び出し僕の正面に飛んで来たのだった。しかし一瞬のシャッターチャンスの後すぐに藪の中に飛び込んでしまった。予期ぜぬ通行人に野鳥を飛ばされてしまう事も多いがもちろん文句は言えないし逆にこういう事も有る。起きた事全てに冷静に対処するだけだ。因みにその時アカウソたちは逃げなかった。
ルリビタキは積雪と絡めて撮れた。愛想良く近い所でポーズを取ってくれた。雪の明度に引っ張られて露出アンダーにならない様にマニュアル撮影した。
そのわずか1分後ベニマシコも積雪は絡んでないがポーズを取ってくれた。雌か雄若鳥か微妙なところだ。
他の16種については今回は割愛した。そんな贅沢な編集をしているといずれしっぺ返しが来るかも知れないので在庫で取っておこう。

イカル:フォトギャラリー第620回他参照
アカゲラ:フォトギャラリー第605回他参照
アオゲラ:フォトギャラリー第614回他参照
カケス:フォトギャラリー第622回他参照
シジュウカラ:フォトギャラリー第613回他参照
ヒヨドリ:初歩のバードウォッチング大きさの指標となる野鳥参照
初歩のバードウォッチング食性参照
YouTube動画:アカウソ参照
分類:スズメ目 アトリ科
全長:15.0cm
翼開長:21.0cm
分布:北海道で繁殖。本州以南で冬鳥。
生息環境:平地~山地の草原、林など。
食性:木の実、種子、昆虫など。
フォトギャラリー:第621回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
ベニマシコ(雌タイプ)
Long-tailed Rosefinch
Uragus sibiricus
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:10時37分58秒
シャッタースピード:1/800秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 ヒタキ科
全長:14.0cm
翼開長:22.0cm
分布:全国で漂鳥。
生息環境:平地~山地の林など。
食性:昆虫、木の実など。
フォトギャラリー:第621回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
ルリビタキ(雄)
Red-flanked Bluetail
Tarsiger cyanurus
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:10時36分56秒
シャッタースピード:1/3200秒
絞り値:F5.6
撮影モード:マニュアル
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 ホオジロ科
全長:16.0cm
翼開長:21.0cm
分布:全国で冬鳥。
生息地:山地の林など。
食性:昆虫、蜘蛛、草木の種子。
フォトギャラリー:第621回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
ミヤマホオジロ(雄)
Yellow-throated Bunting
Emberiza elegans
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:08時53分24秒
シャッタースピード:1/1250秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 アトリ科
全長:16.0cm
翼開長:25.5cm
分布:九州以北で冬鳥。
生息環境:平地~山地の林など。
食性:種子、芽、昆虫、蜘蛛など。
フォトギャラリー:第536回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
Eurasian Bullfinch
Pyrrhula pyrrhula rosacea
アカウソ(①③④=雄、②=雌)
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:15時59分17秒
シャッタースピード:1/2000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:マニュアル
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:1250
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:13時44分21秒
シャッタースピード:1/320秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:11時43分38秒
シャッタースピード:1/2000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:マニュアル
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
撮影日:2021年2月9日
撮影時間:09時02分32秒
シャッタースピード:1/1600秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
アカウソ ミヤマホオジロ ルリビタキ ベニマシコ トリプレットタイプ
第623回 2021年2月22日