とうとうこんな希少種まで撮影してしまった。絶滅危惧ⅠB類(EN)と言えばレッドリストではイヌワシなどと同格で、数あるカモ科の中でも絶滅危惧ⅠA類(CR)のシジュウカラガンに次ぐ希少性だ。しかも普通中国地方から九州北部に数百羽しか渡来せず、それ以外の地域では更に希な渡り鳥とされる。捕食される危険性のあるカモ科の個体数としては、食物連鎖の頂点に立つ猛禽類以上に危機的な数字だ。過去に僕が撮影した野鳥の中でも、放鳥個体もしくは巣立ち個体のコウノトリを別にすれば最も希少だ。近縁のアカツクシガモは情報不足(DD)、カンムリツクシガモは残念ながら絶滅(EX)種だ。
川幅のある河川の真ん中に白い鳥らしき姿が点の様に見えた。周囲にはユリカモメなどの白っぽい鳥が多かったので見過ごしても不思議ではなかったのだが、念の為に望遠レンズを向けてみた。撮影しながらも「見た事のないカモだなあ」という程度の認識しかなく、帰宅後に図鑑で調べて初めてその凄さに気付いた。3羽が首を丸めてカワウなどと一緒に休息中だったが、絵的にはつまらない写真になってしまった。このあと飛翔中の後ろ姿も撮影出来たが、そんなに珍しい鳥ならもっと撮影しておくのだった。しかしこういう事もあるからバードウォッチングはやめられないし、念の為に押さえておく事も怠ってはならない。よくぞ撮影出来たものだと喜ぶべきだろう。撮影難易度も星5個とした。
ところで最近感じる事がある。驚くほど多種の珍しい野鳥が大阪に飛来し、僕のカメラに納まってくれる。もしや彼らは何らかのメッセージを僕に託しているのではないかとさえ思うのだ。例えばツクシガモは例年有明海などに渡来するそうだが、諫早湾が干拓された頃から大阪湾などに分布域をシフトしたという説があるらしい。何しろ諫早湾で干拓された面積は摩周湖より広いのだ。そして大阪でも大規模な公共工事が行われている。全ての公共事業が駄目と言う訳ではないが、人間中心の環境整備の実態を目の当たりにしてしまうと傍若無人と感じてしまう。例えば公園ひとつ整備するにしても、野鳥の事が分かっていないから、小綺麗に下草を伐採しコンクリートで護岸工事をしてしまう。そうなるとウグイスもカワセミも繁殖出来ない。人間の見た目にはすっきりした公園でも、多くの野鳥にとっては住める環境ではなくなってしまう。実によけいな事をしてくれるものだ。一様に見える川でも流れの速い所と澱んだ所があり、自然に深い所と浅い所が出来ている。どこか寂しげに見える3羽のツクシガモ。彼らが羽を休めているのは川の中程の浅瀬だが、例えばもしここが環境アセスメント無しに浚渫されてしまったら、彼らの休息場所が奪われる事になる。おこがましい言い方だが、絶滅に瀕した野鳥が僕の前に姿を現わすのは偶然ではなく、僕を通して言葉を話せない野鳥への関心を高めさせ、環境破壊への警鐘を鳴らしている様な気がしてならない。
分類:カモ目 カモ科
全長:63.0cm
翼開長:133.0cm
分布:中国地方から九州北部で冬鳥。
生息環境:海岸、河口など。
食性:海草、甲殻類など。
レッドリスト:
絶滅危惧ⅠB類(EN)
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★★★
ツクシガモ
Common Shelduck
Tadorna tadorna
撮影日:2010年1月3日
撮影時間:10時17分44秒
シャッタースピード:1/1000秒
絞り値:F11.2
撮影モード:マニュアル
焦点距離:600mm(換算900mm)
ISO感度:1600
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon ED AF NIKKOR 70-300mm1:4-5.6D
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
ツクシガモ
第38回 2010年1月5日