余録;立山
広角レンズを持って行かなかったのを少し後悔した。人間の視界は横に広いから縦に切り取ると不自然に感じる。だから縦位置は邪道と言う人も居るが、険しい立山の雰囲気は伝わると思う。
立山へ行ったもう一つの目的はこういう高山性の野鳥たちと出会う事だった。ライチョウと同様、人間に対する警戒心が薄く、比較的容易に撮影出来たが、普段身近な所には居ないので撮影難易度は星を多めに3個とした。ライチョウと比べると地味で知名度も低いが、高山を代表するお約束の野鳥たちだ。2羽は同じ科で姿は似ているが、カヤクグリがスズメ大で羽色が一様に地味で嘴が黒いのに対し、イワヒバリはやや大きくて羽に白色部が有り嘴の基部が黄色っぽい。イワヒバリと言ってもヒバリとはさほど近縁ではないし似ている訳でもない。
イワヒバリは人間を怖れない。至近距離で平然と採餌する。ジョウビタキやツバメなどと並び人間を最も怖れない野鳥の一つだろう。この様な高山に生息する野鳥の遺伝子には人間を警戒するという習性はインプットされていないのだろうか。ジョウビタキなどは人間社会の存在を知った上で利用している節が有るが、そういった事情とは異なりここは太古の昔より人間の生息する社会から遠く隔たった山中なので人間を警戒すべき対象として認識する必要が無かったのかも知れない。
カヤクグリの背景は空の様に見えるが、実は立山の急峻な山肌がぼやけて写っている。イワヒバリが地面や岩の上を跳ね回るイメージなのに対しカヤクグリはハイマツの枝先でさえずるイメージだ。最初は良く通る声でさえずっているのが聞こえて、その存在に気付いた。人間に対する警戒心がイワヒバリほど希薄ではないが、なわばり性なので一度飛び去っても辛抱強く待っていれば割と近い距離で撮影出来るチャンスが有る。この撮影の時点ではまだ満足にライチョウを撮影出来ていなかったから、あまり本格的に狙っておれる状況ではなかったが、一度チャンスを逃してから我慢して待った結果、何とか撮影だけは出来た。イワヒバリもカヤクグリも冬季は低山に移動するとされるが、未だそういう環境で見た事は無いから立山で出会えた事で高山の鳥というイメージが更に強くなった。
鳥類は飛翔時に激しく運動するので、人間などとは比較にならないほど効率の良い呼吸器系を持っている。種により多少の違いは有る様だが酸素を含んだ吸気はいったん気嚢に蓄えられ、呼気時にも肺を通るため呼気吸気とも酸素交換が出来る。構造上、肺には常に一方向に新鮮な空気が送り込まれ古い空気と混ざり合わない。しかも気嚢がポンプの働きをするため肺は酸素交換に専念している。だから人間が酸欠になる様な高山にも容易に順応でき、アネハヅルの様にヒマラヤ越えをする事も可能だ。鳥類と共通の祖先を持つとされる恐竜が大型化できたのもこのシステムを持っていたからだという説が有るらしい。
今回は勝手の分からない初めて訪れる場所での撮影旅行で右往左往する事はあったが、終ってみれば不思議と楽しい思い出しか残っていない。

ジョウビタキ:フォトギャラリー第13回参照
ツバメ:フォトギャラリー第11回第117回参照
類似種の識別:イワヒバリとカヤクグリ参照
分類:スズメ目 イワヒバリ科
全長:14.0cm
翼開長:20.5cm
分布:四国以北で留鳥または漂鳥。日本固有種。
生息環境:高山~低山の岩場、草地、灌木林など。
食性:昆虫、種子など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★☆☆
カヤクグリ
Japanese Accentor
Prunella rubida
撮影日:2013年8月13日
撮影時間:14時07分47秒
シャッタースピード:1/1250秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:400
撮影地:富山県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 イワヒバリ科
全長:18.0cm
翼開長:30.0cm
分布:高山~亜高山の岩場など。
生息環境:中部以北で留鳥または漂鳥。
食性:昆虫、蜘蛛、種子など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★☆☆
イワヒバリ
Alpine Accentor
Prunella collaris
撮影日:2013年8月14日
撮影時間:07時57分05秒
シャッタースピード:1/1600秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:400
撮影地:富山県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
イワヒバリ カヤクグリ 立山
第120回 2013年9月4日