3成分機械補正式の具体的な一例がミノルタのロッコール75~200mmF4.5だ。絞りが固定されたリレー系に位置するのでFナンバーがF4.5で一定のレンズだ。カメラ任せの撮影ではそのメリットは感じにくいがマニュアル撮影の際にズーミングでF値が変動してしまうと露出オーバーやアンダーといった失敗をするリスクが大きい。
参考文献:小倉敏布「写真レンズの基礎と発展」朝日ソノラマ社1998年
ミノルタロッコール75~200mmF4.5
なお実際のレンズではⅡが凹レンズになっているものが一般的だ。その場合は図の用に虚像O’2をレンズの前方に作る。
Ⅱが凹レンズの場合
焦点距離が変えられるズームレンズは特に構造が複雑だ。出来れば一度合わせたピントが焦点距離ごとにズレない様にしたいという事情も有る。勉強してみるとけっこう深くて面白い。大別して機械補正式と光学補正式が有る。前者はレンズ群ごとに前後にスライドして焦点距離を変える。スライドの方向が一定ではなく往復する場合も有るなど動きが複雑なのでカムが必要だ。後者はレンズを奇数番目と偶数番目の成分に分けてスライドさせる方法だ。後者のメリットは単純な直線運動だからカムなどが不要な事だが常にピントが厳密に合焦する訳ではなく何とか被写界深度(※1)内に収める様に設計しなければならないのが難点でカムの工作技術が進歩した事からほとんどの一眼レフ用レンズが前者の機械補正式だ。単焦点レンズでもそうだったがズームでも望遠系と広角系では作りがだいぶ違う。今回は望遠系のズームレンズについて。この模式図は変倍と焦点移動の原理を図示したものでどのレンズが凸レンズか凹レンズかは決まっていないので便宜的に凹レンズも含めて全てのレンズを凸レンズで表している。縦に並べた各図は焦点距離の変化に伴うレンズ群の位置の変化を連続的に表している。レンズ群は左からⅠからⅣまでの成分に分かれているが成分の数も4つとは限らない。ただこの構成はⅠからⅢまでの3成分が動くので3成分機械補正式と呼ばれ高倍率ズームに有利とされる。それぞれの成分は役割が決まっていてⅠはピントのフォーカシング(動きが他と独立しているので焦点距離が変わってもピントがズレない)、Ⅱは焦点距離を変えるバリエーター(変倍)、Ⅲは変倍によって生じた像点移動を補正するコンペンセーター、Ⅳは固定されて動かず撮像素子に結像させるリレー系(マスターレンズ)だ。それぞれの成分ごとに一旦結像して次の成分はその像を被写体として捉えて次に伝える。図の左端の無限遠の被写体O1からの光束がⅠを通って像O’1を結像する。これがⅡとⅢによってO’2、O’3に再結像される(この例ではO’3は理論上無限遠に結像)。そして最後にⅣが撮像素子にO’4を結像するという流れだ。途中の結像倍率M2は上の図から3分の1、2分の1、等倍、2倍、3倍と変化する様子を表している(この例ではズーム比9倍)。Ⅱの結像位置O’2は一定しないのでⅢが一定位置に結像させる働きをする。ⅢはⅡの動きと連動してO’2と一定の距離感で非線形に前後するからカムが必要になる。ズーミングすると一部のレンズ群が行きつ戻りつするのはこのためだ。因みに絞りがリレー系に有るとズーミングしてもF値(レンズの明るさ)は変わらない。射出瞳(※2)が変わらないからだ。逆にF値が焦点距離によって変動するレンズは絞りが移動する成分に含まれているはずだ。また一般にリレー系は各成分で生じた諸収差をまとめて補正するから複雑な構成になる。
※1被写界深度:許容出来る程度に概ねピントが合焦する範囲
※2射出瞳:レンズを後方から覗いた時に見える絞りの像 ズーミングなどで絞りが撮像素子から遠退くと射出瞳が小さく見えそのぶん暗くなる。
ズームレンズ模式図
連載企画; ズームレンズ(望遠系)
余録;アカスジキンカメムシ(幼虫)〈再掲〉
滋賀県で用事が有ったついでに湖西と湖北で探鳥した(最近何かのついでというパターンが多いけど気のせいかな・・・?)。1枚目のカシラダカは用事の前に湖西の小さな公園で探鳥したらけっこうな数の群れが居た。釣りに来た人やパークゴルフに来た団体さんの他に野鳥ファンらしき人が居たので声を掛けてみたら名古屋から京都に用事が有ったついでに寄ってみたとの事だった(いろんな意味でお仲間だった)。
用事が終って湖北に移動し湖北野鳥センターへ行ったら前の湖面に1羽だけオオヒシクイが残っていた。群れはもうとっくに北帰してしまったが悠然と1羽だけで湖面に浮かんでいた。特にカモ科は警戒心が強くカモ同士で群れる習性が有るが多数の中には変わり者も居る様で孤独が好きなタイプらしい(奥にオカヨシガモらしきカモが写っているが望遠レンズだから近い様に見えるだけで見た目よりかなり遠い)。突然変異とまでは言わないがちょっと違う個体の出現が種の保存に役立ったりする可能性は有る。たまたまその個体が環境の変化に適応して生き残れば新たな進化に繋がるかも知れないし絶滅を免れる事になるかも知れない。進化は必ずしも形態の変化とは限らず習性の変化として現れる場合も有るのではないだろうか。
周辺を歩きたくなって(ここに来ると必ず歩いて探鳥するが)農耕地を歩いていると川の中の茂みから突然猛禽が飛び立った。画角内に捉えていたはずだがピントがあまりにも外れていたのでファインダー像が霧が掛かったみたいに何も見えず合焦するまで手間取ってしまいしかも逆光だった為にこんな画しか得られなかった。まあこれでもノスリと判るから良しとしておこう。
なお去年の余録で同定不能のため謎の甲虫として載せた昆虫を湖北野鳥センターで調べてもらったらアカスジキンカメムシの幼虫と判明した(フォトギャラリー第554回余録参照)。
分類:タカ目 タカ科
全長:雄52.0cm 雌57.0cm
翼開長:122.0~137.0cm
分布:北海道~四国で留鳥。その他で冬鳥。
生息環境:平地~亜高山の林。
食性:小型哺乳類など。
フォトギャラリー:第618回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
ノスリ
Common Buzzard
Buteo buteo
撮影日:2021年3月26日
撮影時間:13時41分01秒
シャッタースピード:1/4000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:滋賀県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
オオヒシクイ(手前)
分類:カモ目 カモ科
全長:100.0cm
翼開長:170.0cm
分布:本州以北で冬鳥。
生息環境:湖沼、水田、湿地、河川など。
食性:ヒシの実、水草、落ち穂など。
レッドリスト :準絶滅危惧(NT)
フォトギャラリー:第528回他参照
撮影難易度:★★★☆☆
Middendorff's Bean Goose
Anser fabalis middendorffii
撮影日:2021年3月26日
撮影時間:12時41分57秒
シャッタースピード:1/3200秒
絞り値:F5.6
撮影モード:マニュアル
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:滋賀県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 ホオジロ科
全長:15.0cm
翼開長:24.0cm
分布:本州以南で冬鳥。北海道で旅鳥。
生息地:平地~山地の林、農地など。
食性:昆虫、蜘蛛、草木の種子。
フォトギャラリー:第619回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
カシラダカ
Rustic Bunting
Emberiza rustica
撮影日:2021年3月26日
撮影時間:08時40分23秒
シャッタースピード:1/4000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:800
撮影地:滋賀県
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
カシラダカ オオヒシクイ ノスリ アカスジキンカメムシ ズームレンズ(望遠系)
第633回 2021年4月7日