この日は海からの強い風が吹いていたから何かが来そうな予感が有った。海が荒れて波が高くなると海鳥が堤防の内側に入って来る傾向が有るからだ。いつも大阪南港の沖合にはカモメ科らしき姿が見えるものの遠すぎてシャッターチャンスが無い。だがこの日は大阪南港野鳥園の中まで入り込んで来た者が1羽だけいた。レンジャーの人に見てもらって、クロハラアジサシの幼鳥だと分かったが、成長夏羽ではないのでは黒くなく、むしろに褐色羽が目立つ。他のアジサシ類の様に頭から水中に突入せず、水面すれすれでホバリングしながら水中に嘴だけ突っ込んで小魚などを捕食する。アジサシ類の中で最もヒラヒラと舞う傾向が強いそうだ。チュウヒを彷彿とさせる飛翔に翻弄され、撮影した画像のほとんどがファインダー中央から外れていた。何度か水面すれすれに急降下して採餌した後、水浴びをしてから飛び去った。傾向として西日本に比較的多いとされるものの稀な旅鳥であり僕にとっては初見だった。
コアジサシは今年の5月、大阪南港で雄が求愛給餌の為に餌探しをしているところを撮影した。こちらは頭から豪快にダイビングして小魚を捕える。絶滅危惧種ながら6月にも河川敷で見かけるなど大阪では他のアジサシ類より身近な感じがするので撮影難易度は星3個だ。
オオセグロカモメは一昨年の秋に大阪南港野鳥園の沖を飛んでいるところを発見し、何とか撮影した。さほど珍しい鳥ではないがこの一回しか見た事がない。セグロカモメと比べると上面が黒っぽく、風切羽の黒との濃淡差がほとんど無い。
なぜかカモメ科は海水浴場などのイメージで描かれる事が多く夏鳥の様な印象が強いが、ウミネコやアジサシ類を除いてほとんどが冬鳥か旅鳥だ。ユリカモメも冬鳥なのでこの様な夏羽を見る機会は少ない。5月、コアジサシと同じ日にたまたま大阪南港で見つけた。よく似ているズグロカモメと比べると、頭部が焦げ茶色で嘴はわずかに赤味が有って長めだ。最初はズグロカモメだろうと思って撮影していた。珍鳥だと思って撮影しても後から普通種だと分かってがっかりする事は多い。同定が難しい場合は珍鳥だと思いたい気持ちを抑えて厳正に判定しなければならない。難解な場合はプロに見てもらって判断を仰ぐ様にしている。
ところでプロのレンジャーは意外にも「パッと見た目」のイメージで判断する事が多い様だ。「後ろから見た時ヨーロッパトウネンはトウネンよりもモサッとした感じ」とか「チュウサギはダイサギよりも目がクリッとした感じ」「コムクドリはシベリアムクドリよりも可愛い顔をしている感じ」といった具合である。もちろん必要な場合には厳密な同定をしているはずだが、見慣れているから瞬間的に何となく雰囲気の違いを感じ取るのだろう。してみると珍鳥を見落とさずにそれと気付くコツは、普通種を見慣れる事から始まるのかも知れない。また、僕はカメラの操作スキルを上げる為にも、普通種だと分かっていてもマメにレンズを向けるよう心掛けている。たまたまそれが珍鳥という可能性も有るだろう。いろんな事を考えつつ地道な観察の積み重ねを怠らない様にしたい。

セグロカモメ:フォトギャラリー:第49回参照
類似種の識別:オオセグロカモメとセグロカモメ参照
初歩のバードウォッチング:色彩・斑紋生息環境参照
分類:チドリ目 カモメ科
全長:40.0cm
翼開長:93.0cm
分布:全国で冬鳥。
生息環境:沿岸、干潟、湖沼、河川など。
食性:魚類、ゴカイ、昆虫など。
フォトギャラリー:第49回参照
撮影難易度:★★☆☆☆
ユリカモメ(夏羽)
Black-headed Gull
Larus ridibundus
撮影日:2012年5月5日
撮影時間:12時06分48秒
シャッタースピード:1/500秒
絞り値:F16
撮影モード:マニュアル
焦点距離:1000mm(換算1500mm)
ISO感度:400
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon Reflex-NIKKOR・C 1:8 f=500mm
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
分類:チドリ目 カモメ科
全長:64.0cm
翼開長:156.5cm
分布:東北以北で留鳥、それ以外で冬鳥。
生息環境:海岸、沖合、干潟、河川など。
食性:魚類、鳥類の雛や卵など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★☆☆
オオセグロカモメ
Slaty-backed Gull
Larus schistisagus
撮影日:2010年11月9日
撮影時間:10時31分55秒
シャッタースピード:1/100秒
絞り値:F16
撮影モード:マニュアル
焦点距離:1000mm(換算1500mm)
ISO感度:400
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D40
使用レンズ:Nikon Reflex-NIKKOR・C 1:8 f=500mm
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
分類:チドリ目 カモメ科
全長:24.0cm
翼開長:47.0~55.0cm
分布:本州以南で夏鳥。
生息環境:海岸、湖沼、河川など。
食性:魚類。
レッドリスト
絶滅危惧Ⅱ類(VU)
フォトギャラリー:第49回参照
撮影難易度:★★★☆☆
コアジサシ
Little Tern
Sterna albifrons
撮影日:2012年5月5日
撮影時間:11時44分50秒
シャッタースピード:1/1250秒
絞り値:F5.6
撮影モード:絞り優先AE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:100
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:チドリ目 カモメ科
全長:26.0cm
翼開長:76.0cm
分布:全国で旅鳥。
生息環境:湖沼、河川、干潟など。
食性:魚類、昆虫など。
フォトギャラリー:初登場
撮影難易度:★★★★☆
クロハラアジサシ(幼鳥)
Whiskered Tern
Chlidonias hybrida
撮影日:2012年9月20日
撮影時間:13時03分56秒
シャッタースピード:1/200秒
絞り値:F16
撮影モード:マニュアル
焦点距離:1000mm(換算1500mm)
ISO感度:200
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon Reflex-NIKKOR・C 1:8 f=500mm
:Nikon Teleconverter TC-201 2×
クロハラアジサシ コアジサシ オオセグロカモメ ユリカモメ
第90回 2012年9月26日