余録;ルリビタキ(雄)
上記の様な事情から本編には不採用。このHPでは小奇麗な写真が本編を飾るとは限らないのだ。
昨冬このポイントで垣間見たものの撮り損ね、その後何度もかよって寒さに凍えながら連日何時間も探鳥し続けたにもかかわらず遂に撮れずじまいに終っていたミソサザイが、今回は林の中の小道を歩いていたらあっけなく出合いがしらに撮影出来た。しかも林の中にたまたま直射日光が差し込んでいる部分だった。小さいうえに落葉や地面と同じ色だから薄暗い林床に居ると松ぼっくりが転がってるみたいで「何か動いたかな・・・」くらいにしか見えない。そういう所が好きな鳥で特に非繁殖期には明るい所には滅多に出て来ないからファインダーで姿を確認するのが難しい上に、やっと撮れてもピーカンじゃないと色が出にくい困った君だ。ご多分に漏れずカメラを構えていると出て来ず、こちらがスタンバイしていないのを見透かした様に瞬間的に姿を現す厄介な被写体だ。そんな訳で前回フォトギャラリーに登場して以来3年近い月日が流れてしまった。羽をこんなふうにピンと立てる仕草はミソサザイの特徴だ。他に似た仕草をする鳥にはカワガラスやオジロビタキなどが有る。写真になってしまうとじっとしている様に見えるが1枚目と2枚目は連写した中の連続した2コマで、D5100のスペック通り秒間4コマとすると撮影時間の差は約0.25秒(データ上は同時刻)、2枚目は茂みに飛び去る直前の最後のカットだ。つまりあと0.5秒遅れていたらこれらの写真も無かった訳だ。いかに切迫した状況下で撮影したかがお分かり頂けると思う。「これ以上何を望むのか?」と言わんばかりの画が撮れても僕の事だからまた狙いに行ってしまうのだろう。しかしそういう事をするとまたフラレて泣くのがオチだったりする。
小さい鳥シリーズではないがこの日は証拠写真ながらキクイタダキも撮れた。過去ログを遡ればもう少しマシな写真を載せているのだがコラムの流れでこれも掲載する。一度でもキクイタダキを見た事の有る人なら雰囲気が分かると思うが、見上げる様なヒノキの枝から枝へ飛び移りながら見え隠れしてあっと言う間に居なくなったので、これでさえ良く撮れたものだと我ながら思う。写りは悪いがこれこそが野鳥だ。こちらもフォトギャラリーに前回登場したのは3年近く前で、当時はウグイス科だったがその後独立してキクイタダキ科になった。
ルリビタキ雄はこのポイントでは常連さんだ(下記余録参照)。昨シーズン撮影したものと同一個体の可能性も有る。ところでごく一部の撮影隊がやっているアプリなどで鳴き声を流す行為や撮影の為の餌付けについて苦言を呈しておきたい。見る人が見れば分かると思うがこのルリビタキもそういう撮影隊による偽の鳴き声におびき寄せられてさえずっているところだ。手っ取り早く撮影したいからとむやみに鳴き声を流すと周囲の野鳥たちが混乱をきたし本来の生態とは異なる不自然な姿を見せるだけではなかろうか。餌付けも度を越すと野生を失い鳥を放し飼いしているみたいになってしまうだろう。食べ過ぎて腹だけが異様に膨れたオオルリを目にした事も有る。僕は飼い鳥には全く興味が無い。だからこんな取って付けた様な写真が撮れても大した感動も無く虚しさしか残らない。地道な努力を重ねてやっと撮れた飾らない野鳥の素顔にこそ新しい発見が有り何倍もの感動や達成感が有る。僕にとって今回の掲載写真の中でどれが一番嬉しくないのかは言うまでも無いだろう。この撮影隊にも大人の対応でそれとなく疑問符を投げかけて早々にその場を立ち去った。こういう人達とはあまり仲良くなりたいとは思わないので情報を探られたが敢えて当たり障りの無い事しか教えなかった。好き勝手に現場を荒らされて僕と同じ様に不快感を持っている野鳥ファンは少なくないと思う。僕は「在るがままの野鳥」を見たいのだ。たとえ枝などが被ってもそれが当たり前だし野鳥の習性を伝えるものならさほど気にならない。野生本来の生態ではなく人工的に手を加えた鳥を見たければ動物園や華鳥園に行けば良い。初心者みたいにそんな薄っぺらい邪道にばかり励んでいる人がもしこのコラムを読んでくれたなら、そういう目で見られていると認識し進む方向を少し考え直してみては如何だろうかとお伝えしたい。反論しようと思えばいくらでも反論出来るだろう。しかしくどい様だがそもそもスタジオみたいに舞台まで設営してカメラをセットしチャンスが何度も有る様な状況を自分達で作ってしまったら知らず知らず技量が落ち、いざ本当のシャッターチャンスという時に反応が鈍ってしまうのではないか。人間は一度楽な方法を知ってしまうとそれが変な癖になってなかなかそこから抜けられなくなるものだ。どの世界についても言える事だと思うが、その先に待っているのはスランプの長いトンネルだろう。
因みに僕はルリビタキの撮影会に見切りを付けて他所へ移動した結果冒頭のミソサザイに遭遇できた。後でルリビタキの現場を覗いてみたら餌を失敬されただけで空振りだったそうだ。野鳥の方が一枚上手だった訳でルリビタキにすれば「してやったり」といったところだろう。ただし今回の結論は「野鳥を狙うな」という事ではない。ミソサザイにしても全く狙っていなかった訳ではなく頭の片隅で想定はしていた。だからここに足が向いたのであり、たった一度のシャッターチャンスにも咄嗟に反応できたのだ。極意とまでは言わないが「狙わない様に狙う」のもバードウォッチングのコツではないだろうか。

カワガラス:フォトギャラリー第121回他参照
ニシオジロビタキ:フォトギャラリー第134回参照
ルリビタキ:フォトギャラリー第171回他参照
分類:スズメ目 キクイタダキ科
全長:10.0cm
翼開長:14.9cm
分布:九州以北で留鳥または漂鳥。
生息環境:平地~山地の針葉樹林など。
食性:昆虫、蜘蛛など。
フォトギャラリー:第102回他参照
撮影難易度:★★☆☆☆
キクイタダキ
Goldcrest
Regulus regulus
撮影日:2015年12月9日
撮影時間:10時11分46秒
シャッタースピード:1/320秒
絞り値:F5.6
撮影モード:プログラムAE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:400
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
分類:スズメ目 ミソサザイ科
全長:10.5cm
翼開長:15.5cm
分布:沖縄を除く全国で留鳥。
生息環境:平地~山地の河川、渓流、沢など。
食性:昆虫、蜘蛛など。
フォトギャラリー:第108回参照
撮影難易度:★★★☆☆
ミソサザイ
Winter Wren
Troglodytes troglodytes
撮影日:2015年12月9日
撮影時間:11時22分06秒
シャッタースピード:1/2000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:プログラムAE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:400
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
撮影日:2015年12月9日
撮影時間:11時22分06秒
シャッタースピード:1/2000秒
絞り値:F5.6
撮影モード:プログラムAE
焦点距離:300mm(換算450mm)
ISO感度:400
撮影地:大阪府
使用カメラ:NIKON D5100
使用レンズ:Nikon AF-S NIKKOR55-300mm 1:4.5-5.6G ED VR
ミソサザイ キクイタダキ ルリビタキ
第212回 2015年12月25日